今回ご説明するのは、人間の臓器のはたらきを五行説に基づいて分類した「五臓」についてです。
五行説は、自然界にあるものを5つの要素に分類して、すべてがバランスしている「調和」の状態を理想的だとする考え方です。
これに基づいて、互いの働きを促進したり・抑制したりといった関係にあるものを「五臓」と呼んでいます。
(ちなみに、「五臓」の働きを強めたり弱めたりする食材の特性を5分類したものを「五味」と言います)
「五臓」と「五味」をそれぞれ理解できれば、薬膳をより深く理解して使いこなすことができますよ!
早速、五臓について見ていきましょう。
五臓とは?五臓六腑とは何のこと?
「五臓六腑に染み渡る」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
温かくて美味しいものや栄養のあるものを飲み込んだとき、内臓にしみじみと染み渡るような感覚を説明した慣用句です。実用日本語表現辞典では、「飲んだものなどが内臓全体に染み込んでいくさま、染み込んでいくように感じられるほど美味しいもの、渇望するものであったさまなどを意味する語。酒に関して用いられることが多い。」とあります。
出典:Weblio国語辞典(https://www.weblio.jp/content/%E4%BA%94%E8%87%93%E5%85%AD%E8%85%91%E3%81%AB%E6%9F%93%E3%81%BF%E6%B8%A1%E3%82%8B)
中医学や薬膳で使われる「五臓六腑」といった言葉は、西洋医学の「臓器」とはまた異なる考え方がもとになっています。つまり、臓器そのものを指す以上に、その臓器が持つ「はたらき」も含んでいます。
五臓とは

五臓とは「肝、心、脾、肺、腎」のことです。
五臓は、六腑から送られてきた栄養を蓄える・栄養を使う・気血水をつくって巡らせるといったはたらきを持っています。
たとえば「脾」は、消化吸収をつかさどる臓の集合です。膵臓は五臓の中に直接書かれていませんが、消化酵素を出すため「脾」のグループに入ります。また、「肝」はただ肝臓を表すだけの言葉ではなく、エネルギーの巡りを潤滑に保ち、気血水を体のすみずみに運んで、消化機能と情緒(気持ち)を安定に調整するはたらき全体を説明するものです。
さらに五臓はお互いに促進したり、抑制したりし合う関係にあります。
●促進する関係(相生)
肝→心→脾→肺→腎→肝……
矢印が出ている五臓が、矢印が向かっている五臓の機能・はたらきを助けます。
●抑制する関係(相克)
肝→脾→腎→心→肺→肝……
矢印が出ている五臓が、矢印が向かっている五臓の機能・はたらきを弱めます。
「心」のはたらきが強くなりすぎると、呼吸をつかさどる「肺」の機能を弱めてしまうといった感じです。
すべての五臓の機能を強くすればいいというものでもなく、それぞれ全体的なバランスがとれた状態が理想的です。
また、一つの五臓ばかり強くなったり、あるいは弱くなったりしても、調和は崩れてしまいます。
六腑とは
六腑は「胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦」のことです。
六腑は食物を最初に取り込んで消化する場所で、五臓に送り込んだり、老廃物を体の外に排出するはたらきを持っています。五臓に随するものが六腑です。
胃や腸をイメージしていただくとわかるように、六腑はいずれも「中身が空洞になっているタンクやチューブ」の形状をしていますね。
なお、三焦とは、特に臓器がないような体内の空間を指すもので、上半身を3等分して上焦・中焦・下焦などということもあります。この三焦をあえて除外して「五臓五腑」ということもよくあります。
肝とは
「肝」は、気を全身にスムーズに行きわたらせる機能を主としています。五行説では「木」に相当し、経路によって六腑の「胆」に通じています。
肝臓や胆のうだけではなく、筋肉、目、涙なども分類されます。
気を巡らせることによって、血液や津液も全身に行き届くようになります。
・気の流れの調節
・血液の貯蔵と配達
・胆から消化酵素と解毒液を分泌することにより、消化吸収機能もアップ
このように、循環・発散・代謝・解毒の機能を総合的につかさどる五臓が「肝」です。
肝の機能が低下すると憂鬱になったり、気持ち・情緒との関係性がとても密接です。眼精疲労も肝の機能の低下によって起こります。一方で、激しい怒りは肝を傷つけて、脾胃の消化機能を低下させてしまいます。
五味のうち「酸」、青色の食物を摂ると、「肝」のはたらきを高めることができます。
心とは
「心」は、心臓の鼓動によって血液をつくったり、正常に体中に巡らせたりする働きのことです。五行説では「火」に属し、経路を通じて六腑の「小腸」につながっています。
栄養を血液に乗せて全身に配達するほか、体温をつくったりします。
血管が集中している舌は「心」の状態がよくあらわれるので、中医学では診断(舌診)に使うことがよくありますよ。
心臓と小腸のほか、舌や汗も関連しています。
・血液の生成と循環
・脈拍のコントロール
・精神活動
・精神を健全な状態でキープ
・冷え性を防ぐ
心が弱ると、不眠症や動悸、情緒不安定な忘れっぽさにつながりやすくなります。
五味のうち「苦」、赤色の食物を摂ると、「心」のはたらきを高めることができますよ。
脾とは
「脾」は、栄養や水分の消化吸収を主なはたらきとしていて、五行説では「土」に属します。経路を通じて「胃」につながっています。
口から栄養を取り入れるときの五臓なので、碑が弱っているときはあまり食欲がわかなくなります。また、消化吸収機能が低下するとだるさや慢性疲労、むくみを引き起こしやすくなってしまいます。
脾の調子が悪いと、口の付近にその兆候が見られます。口内炎や口角炎、唇の荒れ、口臭、味がよくわからないことなどがサインです。
・消化と吸収
・津液の吸収と分配
・血液が漏れ出ないように締める
・汗や尿による水分と老廃物の排出
五味のうち「甘」、黄色の食物を摂ると、「脾」のはたらきを高めることができます。飲食物はできるだけ冷たくない状態で、温めるようにしましょう。
肺とは
「肺」とは、呼吸機能をつかさどり、気と呼吸を調整する臓です。五行説では「金」に属し、経路を通じて「大腸」につながっています。
呼吸器の活動に深くかかわっていますが、気と水分の調整も伴っており、津液で体を潤します。水分で潤すことによって皮膚や内臓の表面をバリアし、免疫力や粘膜の保護にも役立ちます。
・呼吸活動
・水分調整
・免疫機能
・肌と粘膜の保湿
「肺」のはたらきが弱くなると、水分が減って肌や内臓の表面がむき出しになるので、バリア機能が低下し、風邪をひきやすくなったり肌トラブルが増えたりします。また、大腸の潤いにも影響があって、便秘の原因にもなります。
肺、大腸のほか、鼻、皮膚、のど、体毛なども分類されます。
「肺」のはたらきは、五味のうち「辛」、白色の食物を摂ると促進されます。
腎とは
「腎」は、腎臓や膀胱、生殖器などに対応しており、泌尿器全般に相当します。
また、水分代謝などの泌尿器のはたらきだけではなく、生命力を貯蔵する役割も果たしています。活力(エネルギー)を蓄え、発育・成長、生殖活動をコントロールします。
「腎」は、ホルモンバランスを整えたり、アンチエイジング(老化の予防)、骨や歯を健康に整えたりと、幅広い領域で重要な臓です。
・水分代謝
・活力の貯蔵
・美容
・成長、発育
・生殖活動
「腎」が弱ると、抜け毛や髪の毛が細くなりやすくなるほか、腰痛、耳鳴り、骨折、不妊を引き起こしやすくなります。
五味のうち「鹹」、黒色の食物を摂ると、「腎」のはたらきを高めることができます。
薬膳で五臓を整えて、うつくしく健康的になりましょう!
いかがでしたでしょうか?
体のちょっとした不調なども、五臓が強くなりすぎていたり、弱くなりすぎていたりすることで引き起こされています。普段から、生活習慣や食べ物、気持ちがどんな様子かを自分で観察できるようにしておくと良いですね。
中医学の「五臓」は、西洋医学と違って臓器そのものではなく、はたらきや影響のしかた全体を含めた概念のため、すこしむずかしく感じられるかもしれません。
五臓や五味については、丸暗記するよりも、色や味覚をふくんだ五行説で全体的にイメージできるようにすると、理解が早くなりますよ。
次回もお楽しみに!